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リリカルプリキュア 第二話

プロットたてて、書く。
という作業はこんなに難しかっただろうか。

「第二話、第二話を!」というコメント下さった方に感謝と謝罪を。
週一話を目標にしているんですが、第二話目で破綻してもうしわけないです。

大体定文量を目指しているんですが、早速二話目で肥大化してしまいました。
とはいえ、大事な二話だから仕方ないかな、と言い訳を。すみません精進不足です。


それでは「続きを読む」より

第二話 私がプリキュア!? そんなの無理なの!!

です。






「どういう・・・・・・こと?」
 私の質問には答えず、目の前の少女は光に包まれて一瞬その姿が見えなくなる。
 再び現れたその姿はやはりテスタロッサさんで、数時間前と同じ制服姿だった。
「リンディ! 無事でよかった!!」
「レティ!」
 どこからともなく新しい妖精さんが現れ、さっきまで私の手のひらの上にいた妖精さんと抱き合って喜んでいる。
 理解が及ばないことばかりで思考が働かず、今こうして目の前で繰り広げられている光景を呆然と見つめることしかできない。
「ねぇ、この辺で紅い玉見かけなかった?」
 リンディ、という名であるらしい最初に出会った方の妖精さんが私を見上げながらそう聞いてくる。
「これのこと?」
 ひょっとして、と思いポケットの中からさっき拾ったものを取り出すと、妖精さんは安堵の表情を浮かべる。
「よかったぁ! あいつに盗られたのかと・・・・・・あっ」
 テスタロッサさんが私の手のひらから紅玉を取り上げてしまう。
「これは私が預かる。とても危険なものだから」
「えっ? フェイト、でもそれはこの子の・・・」
「リンディ。余計な事は言わなくていい」
 帰るよ、とテスタロッサさんは私に背を向けて歩き出す。
 妖精さんたちは顔を見合わせてから、不安げに視線を私たちの間で往復させている。
「リンディ、レティ、行くよ!」
「フェイト、帰り道・・・わかるの?」
 テスタロッサさんの足がぴたりと止まり、ばつが悪そうにこちらに戻ってくる。
「・・・・・・家まで送る。夜道は危険だし」
「・・・・・・ありがとう、テスタロッサさん」
 余計なことは言えるような雰囲気ではなかったから、私は黙って彼女の後に続いた。




  第二話 私がプリキュア!? そんなの無理なの!!


「まま、まま」
 何かが私の頬をぺちんぺちんと叩いている。
「おはよー・・・ヴィヴィオー・・・」
 もう・・・朝? 何だか全然寝た気がしない。何時に寝たのかさえも覚えていない。
 そういえば、うっすらと目覚まし時計を止めたような記憶がある・・・・・・って、あれ!?
 慌てて飛び起きて時計を見ると、目覚ましが鳴るはずの時間からもう一時間も過ぎている。
「ごめんなさい、アイナさん!」
 ヴィヴィオを抱えて食堂に慌てて駆け込むと、もう皆朝食を終えようかというところだった。
 向けられた「おはよう」に返す余裕すらない。
「よく眠れた・・・って感じじゃないわね」
 苦笑しながらアイナさんは私からヴィヴィオを受け取る。
「とりあえず顔洗ってらっしゃい」
 頷いて向かった洗面所。鏡に映る自分の顔は予想以上に酷かった。


 朝食の準備を手伝うための起床時間だから、寝過ごしたと言っても遅刻に焦るようなことにはならない。
 アイナさんには申し訳ないけれど、久しぶりにゆっくりとした朝だった。
 ひょっとして昨日のことは全て夢だったんじゃないか、とそう思えてきた。
「おはよう、高町さん」
 門を出たところで背後から声を掛けられて肩がびくんと跳ねる。
「おはよう、テスタロッサさん・・・」
 そんな現実逃避はゆるさんとばかりに彼女の両肩の妖精たちが私に向かって手を振っている。
 彼女が来るであろうことは、予感としてあった。
「昨日はありがとう」
 家まで送ってくれたこともそうだけど、アイナさんに事情説明までしてくれた。
 引越してきたばかりで道に迷ってしまい、頼れるのは隣の席で携帯の番号を交換している私だけ。夜分遅くに非常識かとは思いましたが、助けを求めてしまいました。ご心配をおかけしてすみませんでした。と。
 まぁ8割方嘘だけど、そのお陰で私は大目玉を食らうこともなく無事に次の日を迎えられたし、今朝の寝坊についても特にお咎めで済んだ。テスタロッサさんには本当に感謝だ。
「実際私も道に迷っていたし、お互い様じゃないかな」
 その二言でぶっつり会話は途切れる。
 学校に向かって並んで歩く二人の間の距離はほんの少しなのに。
 心の距離は一体その何倍あるのだろう、と思える程に空気が重い。
 聞きたいこと、話したいことはお互いにあるはずなのに、最初の一言が出てこない。
 その均衡を先に破ったのはテスタロッサさんだった。
「昨日はごめん。気が立ってて、色々と言い過ぎた」
 気を立たせたのは、完全に私が原因だ。
 それなのにきちんと謝ってくれるあたり、きっと良い人なんだろうな、と思う。
「ううん、こっちこそごめんなさい」
 あんまり綺麗なので緊張して上手く話せませんでした、なんて口が裂けても言えない。
 昨日から続いていた緊迫した空気が少しだけ柔らかくなったような気がした。
 私たちは歩きながら話を続けた。
「リンディから話は聞いた?」
「・・・うん」
 昨日帰ってからリンディに色々と教えてもらって、その途中で眠ってしまったんだと思う。
 正直、殆ど内容を覚えていない。
 とりあえず覚えているのは、リンディ達妖精は選ばれし伝説の戦士プリキュアにしか見えないこと。
 学生の多いこの通学路にあっても、誰一人として宙に浮くこの不可思議で目立つ存在を認知していない。
「単刀直入に言うよ。お願い、私と一緒に戦って」
 あと記憶にあるのは、プリキュアが現れるのは存在的に対をなす悪が生まれた時だということ。
 悪、というのは昨日テスタロッサさんが戦っていたあの人、もしくはあの人を含む組織のことだろう。
「あいつらは絶対にまた貴女を狙ってくる。・・・これは貴女自身を守ることにもなるの」
 聞こえはもっともらしい。けれど。
「正直言うとね・・・、昨日あったことが現実だってことがまだ信じられないの。リンディとレティを見れば信じざるを得ないんだけど、それでも私がプリキュアで戦わなきゃいけないとかは・・・ちょっと無理がありすぎるかなー・・・って」
 様子見のつもりでやわらかめにNoを提示すると、テスタロッサさんに思い切り睨まれてしまう。
 再び、雰囲気緊迫。
「だって、昨日のテスタロッサさんみたいな戦いをするんでしょ!? あんなのどう考えたって無理だよ!!」
 それが今の正直な気持ちだ。
「・・・・・・どうしてわからないの」
 でも彼女はわかってくれなくて、苛立ちが募っているのがありありとわかった。
 気が付けば私たちは立ち止まっていた。
「貴女は選ばれたの! そして貴女の意志とは関係無く敵は攻めてくるし、それによって関係の無い人たちが巻き込まれて犠牲になる! 貴女はそれでもいいの!?」
「そんな言い方ずるいよ! 私、プリ・・・に立候補したわけでもないのに、そんな・・・突然・・・理不尽過ぎるよ・・・」
 さすがに大声で「プリキュア!」とは叫べなくて、語気が尻すぼみになってしまった。
「貴女にはそんな理不尽も含めて全部まとめて吹き飛ばせるくらいの力があるの」
「そんなのテスタロッサさんにはわからないでしょ!」
 妖精が見えることがそこまで信用出来ることのようには思えない。
「酷いこと言ってるってわかってる。でも、お願い・・・! 受け入れ・・・」
 テスタロッサさんが私の手を握ると、言葉が途切れる。
 演技でも何でもなく、手が震えていた。自分があの場で戦うなんて、想像も出来ない。
「ね? 昨日のこと思い出すだけでこれだもん。私には無理だよ。テスタロッサさんの足を引っぱるだけ」
 テスタロッサさんは力無く項垂れる。
「・・・・・・いくじなし」
「うん。私、弱虫なの。テスタロッサさんみたいに強くない。ごめんね」
 こればかりはどうしようもない。どんなに睨まれても、懇願の目を向けられても、私は弱者の笑顔で眉尻を下げることしか出来ないんだ。
「おはよう・・・って、テスタロッサさん?」
 ちょうどいつもの高級車が現れてすずかちゃんとアリサちゃんが目を丸くしながら降りてくる。
「何よ、いつの間に転校生と仲良くなっちゃったの?」
 からかうように私たちの表情を交互に伺うアリサちゃん。
「・・・・・・っ」
 アリサちゃんと視線が合うと、テスタロッサさんは何も言わずに走り去ってしまった。待ってフェイト! とリンディがその後を追う。
「・・・どしたの、あの子」
「ひょっとして、タイミング悪かった・・・?」
「にゃはは・・・」
 昨日の今日で、どうして一緒に登校して更に雰囲気が険悪なのか。
 納得のいく理由を求められた私は、テスタロッサさんが夢の中の少女であること、それで彼女に近付いたのだけれど夢の件は未だ聞き出せていないこと、そして彼女からある頼み事をされたのだけれど固辞したためにさっきの事態になってしまったことを、歩きながら説明した。頼み事の詳細についてはプライベートな内容なのでと言い訳して勘弁してもらった。
 アリサちゃんの顔は全く納得していなかったけれど、今出来る説明はこれが限界だ。
 真実を打ち明けるにはあまりに内容が突飛すぎる。
 ・・・テスタロッサさん、泣いてたかな。
 それを知ったところで何をどうすることも出来ないけれど、これから学校での一日を彼女の隣で過ごさなければいけないことを想うと、重石を載せたみたいに気分が沈んでいく。
 大きな溜息が一つ、漏れる。
「幸せが逃げるわよ」とレティ。
 今日も一日、厭味な程にお天気は良さそうだ。


   ◆


 だだっ広い部屋には幾つものホロディスプレイが所狭しとひしめき合っている。
 それらはどこかの映像を中継していたり、何かのデータを表示していたりと様々だ。
 外界から遮断された管制室、といったところだろうか。
 その薄暗い部屋の中央でそれらの情報に囲まれながら、手元にあるコンソールを忙しなく操作している女性が一人。
「姉様、只今戻りました」
 その女性は扉を開いて現れた妹に「おかえりなさい、クアットロ」と声だけかけて、作業を中断するどころか視線一つ微動だにしない。
「その様子では首尾良く運んだというわけではなさそうね」
 責めるような口調ではなかったものの、クアットロは憎々しげに唇を噛んだ。
 元々失敗など想定していなかった彼女のプライドの高さがそうさせているようだった。
「・・・・・・新しいプリキュアが現れました」
「プリキュアが?」
 声の抑揚は少ないものの、驚いてはいるようだ。
「それは興味深い」
「「ドクター」」
 姉妹の声が重なる。
 ドクターと呼ばれた、白衣の男はクアットロからの報告を興味深げに聞いている。
 その目には時々常軌を逸した狂気が見え隠れしている。
「そうか・・・、月日が経つのは早いものだね。しかし、偶然にしては色々と出来すぎじゃないか」
 彼が何に対して笑っているのかわかるものはその場にいない。それどころか彼が何を考えているのかさえも長く共にいる彼女たちにはわからなかった。
「もう一人はまだ覚醒してはいないのだろう」
「はい。しかし覚醒したところで力もまともに使いこなせないひよっこ、我々の脅威にはなりえません」
 それは危険な憶測だとウーノは思ったが、口にすることはなかった。
「すまないね、本当は君に頼むようなことでないのだけれど。如何せん人手が足りなくてね」
 その声から詫びの感情は感じ取れず、むしろこの状況を楽しんでいるようだった。
「持っていくといい」
 そう言って青い宝石を二つ差し出す。
「・・・・・・よろしいんですか?」
 それが彼女のプライドを傷付けていることなど露知らず「構わんよ」と上機嫌に続ける。
「君の安全は最重要だ。間に合えば折を見て誰かを援軍に向かわせる。くれぐれも無理はしないようにね」
 クアットロは何も応えず不遜な態度で部屋を出て行った。
「ドクターあれは・・・」
「いいんだよ。彼女も言っていただろう『まだ力をまともに使えない』と」
 ですが・・・、と納得がいかない様子の秘書を手で制す。
「心配には及ばないよ。全ては計画の内だ。信用してもらえないかもしれないが、私は君たちのことを大切に思っているよ」
 そう言われてしまっては、ドクターを盲信する彼女にそれ以上追及する術は無い。
「ウーノ、君は彼女の行方を探ってくれ」
「かしこまりました」
 ドクターも部屋を去り、秘書はさっそく彼からの依頼に取りかかる。


   ◇


「で、ご用件は。バニングスさん」
 あの子の友人らしき二人にランチのお誘いを受けて、フェイトは中庭にいた。
 少し言い方がけんか腰過ぎただろうかと思ったが、気の強そうな彼女はまるで気にする風もない。
「アリサでいいわ。私もフェイトって呼ぶし」
 サバサバしていて付き合いやすそうな子だな、とフェイトは思った。
「私のこともすずかでいいからね、フェイトちゃん」
 で、こっちは見るからに品の良さそうな筋金入りのお嬢様。中々面白い組み合わせだ。
「察しはついてんでしょ? あの子のことよ」
 あの子、が誰を差しているかわからないほど鈍感でもない。
「いくら友達でも過保護過ぎない?」
「・・・何が?」
「頼まれたんでしょ? 『あの子』に」
 彼女がこの場にいないのはそういうことなんだろうと思っていた。
「なのはちゃんはそんなこと言わないよ」
 すずかの言葉にアリサは口惜しげな表情を見せる。
「だからあたしたちはこうして独断でおせっかいしてやることくらいしか出来ないのよ。情けないでしょ? 友達なのに」
 そう言って自嘲する。
「で、もう手遅れかもしれないんだけど、あんたへの頼み。・・・あんまりあの子に重いもの持たせないでやってね」
 フェイトは沈黙をもって続きを促す。
「あの子、全部自分で背負おうとするの。で、たちの悪いことに誰にも頼らないの。悪い癖だと思うけど、たぶんもう直せないんだと思う」
 聞いたことのない話ではないように思えた。
「あんたがなのはに何を頼んだのかは聞かない。でも今頃あの子は必死に悩んでる。どうやったらあんたの頼みを聞き届けられるか」
 そんな子だったなんてちょっと意外だ。でも私が一日程度で抱いた印象なんかよりも、長いこと一緒にいる彼女の評価の方がよほど信用のおけるものだろう。
「・・・なのはにとってあんたはたぶん特別なのよ」
「・・・・・・えっ?」
 ぼそりと呟いたそれがひょっとしたら一番重要なことのように思えた。
「それって、どういう・・・」
「言わない」
 有無を言わさぬ拒否に、二の句も告げない。
「それは私の役割じゃないから。聞きたきゃ自分で聞いて」
「・・・ありがとう」
 言いながら自然と笑みが零れていた。
「何よ、いきなり笑ったりして。失礼じゃない?」
「あの子、良い友達がいるんだなって」
 アリサはちょっとだけ頬を染めてそっぽをむいた。
「ま、親友だからね」


   ◇


 お昼休みが明けて最初の授業。
 先生の眠気を誘う話術とは別にレティが念話で色々と話しかけてくる。
 テスタロッサさんの専属らしいこの妖精さんは眼鏡がよく似合っていて知的な雰囲気のある美人さんだ。
 リンディももちろん美人さんだけど、こっちはほんわかおっとりという印象がある。そんな印象そのままにテスタロッサさんの肩で船を漕いでいる。
『―――って、ちゃんと聞いてる?』
『・・・ごめん、昨日あまり眠れなくて』
 睡眠不足の今の私に、午後のこの陽気は凶悪すぎる。
 レティの言うことが右から入って左に抜けていく。
 意識が朦朧として、ふわふわする。
 俯いて口元を押さえながら思い切り欠伸をする。
 溜まった涙を拭いながら、脇目でちらりとテスタロッサさんを見る。
 ・・・・・・寝てる。
 そこまで姿勢正しく寝ているともはや清々しく思える。
 先生も気付いたらしく、私を見て顎を動かしている。「起こせ」の指示だ。
 私が指先でちょんちょんと肩を突くと、まるで一回のまばたきがとても長いのだと言わんばかりにゆっくりと瞼を開く。
 そして先生の注意が逸れた頃にまた穏やかに瞳は閉じられた。
 その間、瞼以外まるで動いていない。ある意味すごい。
『昨日はずっと貴女の家を見張っていたから』
『えっ!?』
 驚いてテスタロッサさんを見る。昨日私が寝ていたあの瞬間にも彼女は起きていたの?
『貴女が思っている以上に、貴女は今危険な状況にいるの。標的にされるくらい、彼らにとって驚異になる可能性を秘めている・・・。だから手を貸せ、っていう話じゃ無しに。これは単なる事実ね』
 それでもトゲのある言葉だと思った。
『貴女が伝説の戦士である限り、貴女が狙われれば私たちは助けなきゃいけない。力を拒否した貴女でもね』
『そんな・・・』
『ええ、卑怯ね。でも貴女は情に訴えた方が交渉は楽かなと思って』
 それきりレティは口を噤んでしまった。
 私は、私の知らないところで色々な人に守られている。
 住んでいる施設のみんな、クラスメイト、親友の二人。
 お昼休みにわざわざ呼出してまで私の話を聞いてくれた生徒会の人たち。
 そして、テスタロッサさん。
 せめてそういう人たちには迷惑を掛けずにいられたら、と思う。
 そうでなければ、それと同等のものを返せればいいな、って。


   ◇


 放課後、話しかけてきたのは高町さんの方からだった。
「テスタロッサさん、一緒に帰ろう。話したいことがあるの」
「奇遇だね。私も同じことを考えていたよ」
 不思議と午前中はあんなに険悪だった雰囲気が少しだけ和らいでいることに、高町さんも気が付いているみたいだった。

 人通りの少ないところを選びたかったのもあり、ちょっと遠回りをして河川敷を歩く。
 夕日に照らされて、河面が紅く輝いている。
「私、今朝はあんなこと言ったけど、やっぱりテスタロッサさんの手助けがしたいかな・・・って」
 高町さんの言葉にリンディとレティが抱き合って喜ぶ。
「・・・本当に?」
 頷く彼女が無理をしているのがわかった。震えているのを隠そうとしている。
 ・・・ひょっとしたら私たちは少しだけ、似ているのかも知れない。
 最後の最後で本心を言う事の出来ない、その不器用さが。
 そのまま彼女の好意を受け入れればいいのに、その方が良いに決まっているのに。
「気持ちはありがたく受け取るよ。でも、無理しないで」
 その言葉に高町さんの表情が一瞬揺らぐ。
 ほら、やっぱり。
「でも、それじゃあテスタロッサさんが・・・」
 どうして、こうも素直になれないんだろう
 似たもの同士なら歩み寄れるかも知れないのに、どうしても最後の一歩が踏み出せない。
 でも今なら・・・、今なら言えるかも知れない。
「私、本当はね・・・」
 言い掛けた、その時。
 突然空が曇り、辺りが邪悪な気配で満ちていく。
 青い光に闇が凝縮されていき、巨大な人型の影となる。
 そして私の視覚に狂いがなければ、その光は二筋に見える。
「うそ・・・二体も!?」
 やはり、見間違いじゃなかった。
 夕日を背にこちらに迫ってくる黒い影は異様に不気味だ。
「逃げて」
「でも・・・」
「貴女がいたら戦えない!」
 私も戦う、と言わなかった彼女を責める気は今の私にはもうない。
「大丈夫、すぐに追い付く。私、強いんだから」
 リンディと共に高町さんを逃がす。
「いくよ、レティ! バルディッシュ!」


   ◇


 振り返らずに、必死に、必死に走る。
 どうしよう。・・・どうしよう!
 本当は「一緒に戦うよ」って言うつもりだったのに。
 いざ化物を前にしたら足が震えて、何も言えなかった。
 無理しないで、ってテスタロッサさんの言葉に心からホッとしている自分が情けない。
 恐怖とはどんなものなのか、知らなかった。そして今、それを前にして己の無力さを知った。
 ・・・私には無理だ。
「きゃっ!」
「なのは! 大丈夫?」
 つまずいて転ぶ。すりむいた膝からは血が滲んでいる。
 そう、私の日常の恐怖なんてこの程度のものなんだ。
 彼女とは、生きている世界が違う。
「こんにちは~」
 聞き覚えのある声に顔を上げると、昨晩の悪夢の元凶が宙に立っていた。
「昨日返してもらえなかったものをいただきに来ましたぁ~」
「クアットロ!」
 心が笑っていない、偽物の笑顔が空恐ろしい。
「よかったぁ~。貴女までプリキュアになってたらどうしようかって心配してたんだけど、大丈夫だったみたいね」
 笑顔の奥にある瞳が侮蔑の色に染まっている。
「賢いわよ、貴女」
 私の怪訝そうな表情を見て「だってそうでしょう?」とクアットロが続ける。
「正義の味方よ? 無償の善意なのに、助けられなければ好き放題罵られ憎まれ・・・。たった一人で死と隣り合わせの苦行した挙げ句に見返りがそれって・・・どうかしてるわ」
 ハッとした私の反応に彼女は満足したみたいだった。
「貴女がしようとしていることは、そういうことなの」
 でも、きっと私は彼女が思っていることとは違うことを考えていた。
「だから、貴女が持っているもの、渡してもらえる? 大丈夫。この世界に危害が及ぶことはないわ」
「嘘よ! なのは、騙されちゃダメ!」
「黙っててもらえる? 私は今、彼女と話しているの」
 テスタロッサさんは今、独りなんだ・・・。
 たった独りで、戦っているんだ。
 顔も知らない誰かの為に。そして、私の為に・・・。
「貴女がそれを渡してくれれば、今後一切貴女とこの世界に危害を加えないことを約束するわ」
 そう言って、こちらに手を差し出すクアットロは勝利を確信しているようだった。
 手が、震える。
『ねぇリンディ・・・』
 突然の念話に驚いてこちらに視線を向けた妖精に、私は続ける。
 ・・・・・・いいのか、私。
 これを言ったら、後戻り出来なくなるのに。
 私は、震える手をぎゅっと握りしめる。
『私も・・・プリキュアになれるかな』
 リンディは驚きを表情には出さなかったものの、軽く息を呑んだ。
 そしてしばし私の表情を見つめてから諭すように言った。
『プリキュアの強さは心の強さ。想いの強さ。誰かの幸せを願ったり、誰かを助けたいって思ったり、そういう貴女の純粋な想いが、貴女をプリキュアにするの」
 ・・・それなら私は今、誰よりもあの子を助けたい。
 心は、決まった。
『キュアライトニングを助けに行こう。あの人の足止め、出来る?』
 リンディが笑顔になる。
『まかせて!』
「さぁ迷うことはないわ。早く渡しなさ――」
『なのは、目を閉じて両手で被って!!』
 それに従ってもわかるくらいの目映い光をリンディは放った。
「なっ!?」
 完全に視力を奪われたクアットロは跪いて動けずにいる。
 少女が走り去る足音に、感情を隠さない声で唸る。
「・・・・・・ク ソ ガ キ!!」


   ◇


 キュアライトニングはこの二体が囮であることについさっきまで気付けずにいた己の迂闊さに唇を噛んでいた。
 敵は距離をとるでもなく詰めるでもなく、かといって必殺の一撃をこちらに撃たせる隙は与えない明らかな時間稼ぎをしていたというのに。
 冷静でいられたならもっと早くに気付いたはずだ。
 正直、わからなくなっていた。あの子の手を取るべきだったのか、それともこれでよかったのか。
 それでも。早く、あの子を助けにいかなくちゃ。
「焦らないで、落ち着いて!」
 レティの忠告は届かず強引な突破を図り、生じた隙を突かれ直撃を受けてしまう。
「うぁぁぁっ!!」
「フェイト!!」
 勢いのまま地面に叩き付けられ、ダメージの蓄積から変身が解けてしまう。
「くっ・・・!」
 起き上がろうにも体がうまく言うことをきいてくれない。
(こんなところでっ・・・!)
 レティが必至に治癒を施してくれているけれど同じことをくり返しているせいか、随分と効果が薄れてきている気がする。
 漆黒の影が二つ、こちらにゆっくりと近付いてくる。
 ・・・戦わなくちゃ。
 ・・・あの子が、危ない。
 でも、力無く地面に倒れ伏してしまう。
「しっかりして、フェイト! あきらめちゃダメ!」
 あの子、ちゃんと逃げられてればいいけど・・・。
「―――テスタロッサさん!!」
 聞き違いかと思った。でも自分の事をしっかり抱き留めてくれていたのは間違いなく彼女だった。
「大丈夫!?」
 リンディも治癒に加わり、フェイトは回復速度が格段に上がる。
「高町さん、どうして・・・」
 言いながら、淡い期待に胸が騒いでいることに気付く。
 不意に懐から紅玉が零れ落ちる。
 フェイトが手を伸ばすよりも先に、なのはが手に取る。
「これ・・・私にくれる?」
 その言葉の意図を知り、フェイトは複雑な表情を浮かべる。
「・・・いいの?」
「私なんかじゃ不安かも知れないけど・・・でも・・・」
「そんなことない!」
 今なら、本当の心を放てると思った。
「・・・私、君と一緒なら戦える気がするの」
 フェイトは紅玉を握るなのはの手に、自分の手を重ねる。
「ほら、私もね・・・震えてるの」
 そう言って、力無く笑うフェイト。
 私だって、全然強くなんてない。
 ・・・だから。
「一緒に・・・戦ってくれる?」
 独りは寂しいし、怖いんだ。
 でも、君と一緒なら。
「・・・うん!」
 二人はゆっくりと立ち上がる。
「一緒に唱えて」
 フェイトの言葉になのはは無言で頷き、二人は手を繋ぐ。
「やばい! オマエラー!!」
 追い付いたクアットロが叫ぶと二つの巨体が二人目掛けて突っ込んでくる。
 なのはは伸ばした左手の先に紅玉を掲げ、フェイトは三角形の黄金の宝石を右手の人差し指と中指に挟み胸の前に構える。
 そして―――

「セットアップ、プリキュア! イグニッション!!」

 声を合わせると、二人は大きな光に包まれる。
 突進してきた二体のデカブツはその光に弾き飛ばされてしまう。
 その中で光の衣を纏う二人が手にした宝石にくちづけをすると、宝石たちは持ち主の手を離れ自立的に動き始める。
 紅玉はリンディと共になのはの周りを流れ星のようにきらきらと飛び交い、その七色の煌めきに触れた部位から衣装が替わっていく。
 黄金石はフェイトの頭上へと移動し、レティが天に向けて手をかざすと轟音と共に雷が降り注ぐ。雷に呑まれた体はバチバチと放電しながらコスチュームを変化させていく。
 白と桜色を基調とした衣装のなのはは、髪も桜色でポニーテールから短めのツーテールへと変わる。
 白と黒がベースカラーのフェイトは、腰までのロングヘアが長めのツーテールになって色は変わらずに金のまま。
 そして宝石たちが主の胸元にで揺れるリボンの中央へと収まると二人を包んでいた光が弾け、ふわりと着地する。

「煌めけ、星の光! キュアステラ!!」

「轟け、裁きの雷! キュアライトニング!!」

「「リリカルプリキュア!!」」

 自分の意志とは関係無くポーズまできめてしまっている不思議。
「わ、わ、すごい! 本当に変身しちゃった!」
 感激して自分の姿を確認するなのはは、自分を見つめるきょとんとした視線に気付く。
「どうしたのテスタロッサさん?」
「・・・誰?」
「酷い! 私、なのはだよ! な、の、はー!」
 フェイトは原形を残しているが、なのはに到っては髪の色も手伝ってもはや別人といって差し支えなさそうだ。
「くっ、失態だわ・・・。でも、まだ力をうまくつかいこなせない今なら・・・!」
 オマエラーの瞳がギラリと鈍光を放つ。
「オレダー! ケッコンシテクレー!!」
「ジャア ライトニングハ ボクガ イタダキマスネー!!」
 どどどど、と砂煙を上げながらこっちに向かってくる漆黒の変態。
「いくよ・・・ステラ!」
「うん、ライトニング! って、はわわっ!」
 敵に直進するライトニングと、初っ端つまづくステラ。
「テッペキスカート スキアリー!!」
 巨体がステラ目掛けてルパンダイブで飛びかかってくる。
「ステラ!!」
「大丈夫!!」
 スカートを抑えながらひらりと身を翻してそれをかわし、地面に突っ込んだ化物目掛けて思い切り跳び蹴りをぶちかますと冗談みたいに吹き飛んだ。
「すごーい!!」
 昨日見た光景と同じことをしている自分にただただ驚くなのは。
(初めてであの動き・・・すごいな、あの子)
 敵の攻撃をいなしながら、素人離れした動きに感心する。
 とはいえ、驚いているのはなのはばかりではなかった。
(・・・独りで戦っていた時とはパワーが全然違う!)
 体の奥底から力が沸いてくるこの感じ。今は目の前の敵に全く恐怖を感じない。
 さっきまでとは完全に形勢逆転。相手の隙を突いて投げ飛ばすと倒れていたもう一体の上にちょうど重なる。
「今よ、ステラ!!」
 リンディが叫び、ステラは頷く。
「レイジングハート!」
 胸元の紅玉を取って変身した時と同様に掲げると、紅玉が魔法の杖へと変化する。
 それを手に、杖の先端で大きく円を描くとそれをなぞるように桜色の魔方陣が現れる。
「プリキュア! ステラバスター!!」
 その魔方陣目掛けて杖を振りかざすと、図太い桜色の光線が発射される。
「「アッ-!!」」
 二体の怪物はその光に呑まれて、跡形も無く消え去った。
「うわ、まず・・・」
「逃がすかっ! バルディッシュ!」
 胸の宝石を手に叫ぶと、その姿は光の刃を持つ斧へと変わる。
「プリキュア! ライトニングセイバー!!」
「しまっ・・・!」
 その一閃は完璧な直撃をもって相手を無力化した。
 仰向けになったクアットロはまだ意識はあるらしく、こちらを睨み付けている。ライトニングはその喉元に刃の切っ先を向ける。
「動かないで。抵抗しなければこれ以上危害は加えな・・・・・・っ!?」
 迫る殺気にライトニングが後退すると、今まで立っていた場所に金属製のナイフが数本刺さる。
「っ!!」
 それを見たライトニングの表情が歪む。
「すまない、遅くなった」
「遅過ぎよ、チンク・・・」
 現れた仲間と思しき幼い少女はその言葉使いもさることながら、銀髪で右目に眼帯という強烈な印象を与える。ナイフを投げたのも恐らくは彼女の仕業だろう。
「新手? ライトニング、二人でなら!」
「動いちゃだめっ!!」
 ライトニングがステラの腕を掴むのと、ぱちん、という指を鳴らす音が聞こえたのはほぼ同時だった。
 途端、地面に刺さっていたナイフが爆発する。
 あのまま直進していたら爆発に巻き込まれていただろう。
「新しいプリキュア・・・か」
 クアットロを肩に担いで表情を変えることなくそう呟いたチンクが、少しだけ眉間に皺を寄せる。
「貴様・・・。そうかあいつの娘か」
 その言葉の意味を知っているのか、ライトニングは射るような視線を返している。
「この眼の借りはいずれ返させてもらう」
 そう言い残して敵が姿を消すと、荒れ果てた河川敷は元通りに戻る。
 フェイトは変身を解いて、ふぅ・・・と一息。
「ありがとう、高町さん。嬉しかった。戻ってきてくれたこと、一緒に戦ってくれること・・・本当に。これからよろしくね」
 笑顔のフェイトとは対照的に、なのはの表情は晴れない。
「高町さん?」
「どうしよう、テスタロッサさん・・・」
 なのはの顔がみるみる青ざめていく。

「元の姿に戻れないんだけど・・・」


(つづくの!)




  次回予告

 プリキュアになったはいいけれど、全然力の制御が出来ない私。
 そんな私が連れて行かれた先で待っていたのは・・・もう一人のテスタロッサさん!?

次回、リリカルプリキュア!
『交換お泊まり会はドキドキがいっぱいなの!』

 リリカルマジカルがんばります!


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テーマ : 魔法少女リリカルなのは
ジャンル : アニメ・コミック

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プロフィール

高町屋

Author:高町屋
高町屋は「魔法少女リリカルなのは」の二次創作を行う創作集団です。【Since 2008.11】

↓↓↓リリカルなのはの二次創作、同人活動をしている方、マイミク/マイピク募集中です。お気軽にどうぞ♪mixi pixiv Dolce

≪MEMBER≫
高町きよ:高町屋代表。企画・二次原案担当。とにかく筆が遅い。ふと気が付くと、脳内ではなのはとフェイトがいちゃいちゃしている。

木村由宇:高町屋絵師。HP管理人。振り回される方。苦労人。気が付けば一番精力的。どんなに忙しくても締め切りはちゃんと守る。見習え、代表。

幼専士タチバナ:真性のロリコン。ここ最近の高町屋の影の功労者。事務能力皆無の代表をサポートすべく、イベント参加率は絵師より高いかも。

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サイトについて
※高町屋は「健全系」小説・漫画サークルを自称しています。本サイトでは成人向けは取り扱っておりませんが、なのはとフェイトがとてもとても仲良くするような表現が多々見られますので、そういったものはちょっと・・・という方は、ご覧になるのをお控えになったほうがいいかもしれません。
カテゴリ
リリカルプリキュア(2)


【長編】魔法少女リリカルなのはNightmare(59)
  第十三話
  第十二話
  第十一話
  第十話
  第九話
  第八話
  第七話
  第六話
  第五話
  第四話
  第三話
  第二話
  第一話

SS(7)
  ぷろぽーず ぱにっく!⑦
  ぷろぽーず ぱにっく!⑥
  ぷろぽーず ぱにっく!⑤
  ぷろぽーず ぱにっく!④
  ぷろぽーず ぱにっく!③
  ぷろぽーず ぱにっく!②
  ぷろぽーず ぱにっく!①
(ViVidとForceの間?/なのは、フェイト、ヴィヴィオ)
  きねんび(後編)
  きねんび(前編)
(A's/なのは、フェイト)
  じぇらしー
(ちゅーなの/なのは、フェイト)
  わたしのままとまま
(StS/なのは、フェイト、ヴィヴィオ)
  わがまま
(A's/なのは、フェイト)
  ぱぱ?
(StS/なのは、フェイト、ヴィヴィオ、機動六課)

漫画(22)
  勉強会⑦+⑧
  勉強会⑥
  勉強会⑤
  勉強会④
  勉強会③
  勉強会②
  勉強会①
  わがまま
  今は反省している。
  休日の過ごし方②
  休日の過ごし方
  戦場では一瞬の判断の遅れが死を招くんだ!
  共働きの核家族でありがちな風景
  間接キス⑤+⑥
  間接キス④
  間接キス③
  間接キス②
  2時間15分59秒。
  たしなみ
  虫刺され?
  またふーふー
  ふーふー

絵(20)
  ぜくしぃ!
  40000hit記念!!!
  ViVid連載開始記念!
  高町なのはで表情練習
  甘えんぼなのはさん
  SAI購入記念?
  10000hit記念!!!
  らくがき11
  あけましておめでとうございました。
  メリクリ②
  メリクリ①
  らくがき10
  らくがき9
  らくがき8
  らくがき7
  らくがき5
  らくがき4
  らくがき3
  らくがき2
  らくがき1
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